2012年12月12日

「近藤ようこ展」終了で感謝!

 画業33年目にして初の個展では、連日多くの人で賑わい、絵も本も完売!という快挙を達成した「近藤ようこ展」が無事終了し、長く仕事をご一緒させていただいている私も、僭越ながらも万感の思いが胸に迫ります。

 今から約6年前、近藤さんから「描きたいものがあるんですが、描き下ろしで出してもらえませんか」という電話を頂き、それが坂口安吾原作の「戦争と一人の女」であると知ったときは正直驚きました。原作付きというだけでも近藤さんとしては珍しことなのに、取り上げた作品が坂口安吾の中でもちょっとマイナーなもので、これを漫画化するにはとてつもない困難を要するであろう、ということが容易に想像できたからです。でも近藤さんの作品や仕事ぶりには全信頼を置いているで「やりましょう」と二つ返事でOKしたのでした。

 その後、近藤さんは「難しくてなかなか進みません」と苦笑する日々が続き、編集担当の私はそれに何の手もさしのべられず「いいですよ、待ってますよ」とただただニタニタしているだけで、逆に自分の無能さに呆れた時間でもありました。
 6年がかりで描き上げられた原稿は、中編とは思えないくらい内容も濃厚で、とても重みがありました。目を通したときにいくらアホな私でも「これは!」と驚くほどの傑作だったのは言うまでもありません。
 また、今回もうひとつ驚いたことといえば、カバーイラストの件。これまで何冊も近藤さんの本を編集させていただいたのですが、イラストについて自ら「女の足で行きたい」と強く希望されたのも今回が初めてだったのでは、と思います。指定された難しい素材を生かして井上親方が素晴らしい装丁に仕上げて下さり、ギャラリー会場でも大評判でした。ちなみに、個展は本の発売に合わせて、ということでビリケンギャラリーの“とっつぁん”こと、近藤さんの大ファンである三原さんのご厚意&心意気で、無理矢理空けていただきました。ありがとね!

 個展では初日からたくさんの方にご来場いただきました。デビュー時よりのファン、最近読んで大好きになったという若いファン、初の個展ということでわざわざ遠方よりお越し下さったファン、そして歴代の担当編集者、書店員、同業者が連日お越し下さり、近藤さんのお人柄とキャリアが伺えました。今回は新作の漫画原稿展示もあり「生原稿を見るのは初めてです」という方がほとんどで熱心に見入っていました。また近藤さんもほぼ連日在廊され、一人一人にサインを入れ「来ていただいてありがとうございます」と丁寧な対応をされ、みなさんとても感激していました。 「戦争と一人の女」は近藤さんの意欲作であり傑作であることは間違いないのですが、この時期に、というか6年も前からの思いを貫き通したのは、もちろん近藤さんはプロの漫画家であり作品に対する姿勢もいつも真摯で有り続けていることが挙げられるのですが、もうひとつは、長く続く出版不況で書店の相次ぐ閉店、雑誌の廃刊、売上の減少が留まりを見せず、そこに電子出版という新しいメディアが登場し、しかしその波に上手く乗れない作家が圧倒的に多く、漫画家稼業を続けて行くのが日を追うごとに困難になってきているこの時期だからこそ、というのも大きいのだと思います。電子出版ではとても食い扶持にはならず、かといえ雑誌で食える時代もすでに終わりを告げているようなこの大変換期に、この先漫画家として生きて行くにはどうしたらよいのか、そして今何が出来るのか…その模索の苦しみと迫り来る危機を怖ろしいほどに感じた近藤さんだからこそ、新作描き下ろしへと向かったのだと思います。それも絶対に失敗は許されない、という厳しい決意の中で描かれたことは作品に大いに反映されているので読めば分かります。

 長引く不況と様々な情報と状況に流されていると肝心なことを見落としがちですが、今回はその見落としがちな大事なものがギッシリと詰まっていたと思います。原稿に託された作家の思いを読み解く事が出来る作品は素晴らしい。紙であれ電子であれ、肝心なのはその作品を描く作家の決意と覚悟だと思うんですね。そしてその作品を世に送り出す編集者の、版元の決意と覚悟も絶対に必要。物を創る、漫画を描く、と言うことはそういうことなんだ、ということを強く再認識させられた個展でした。
 生き残り大作戦は来年も続くと思いますが、苦しかった2012年の終わりに、このような気持ちになれたことに、近藤さんは勿論のこと、全ての漫画家、全ての読者の方々にあらためて感謝! であります。(手塚)

※おまけ。近藤さんの個展にいらした秋山亜由子さんがその様子と感動をブログ「虫メモ」に書かれています。すごくいい文章なので是非ご一読を!

※なお、ビリケンギャラリーでは14日(金)から【本秀康かせきさいだぁ「レコジャケ観光」展】が始まりますので、こちらもヨロシク!

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最終日もずっとサインを入れていた近藤さん。お疲れ様でした。


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最終日の様子はこんな感じ。レジにも人が並びました。


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「これまでの作品と比べると目の描き方が違う。表情があって力強くてすごい!」と感嘆されていた藤本由香里さん。お忙しいところありがとうございました。


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とり・みきさんと近藤さんが知り合う切っ掛けになったのは、何とツイッターなんだとか。最終日に駆けつけて下さいました。


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自転車をすっ飛ばして閉廊ギリギリに間に合った池田ハルさん。「戦争と一人の女」最後の一冊はハルさんがゲット! よかったねぇ。今回は初日からアックス作家さんもたくさん駆けつけてくれました。みなさん、ありがとうございます!!!!
posted by 青林工藝舎 at 19:57| 日記