2010年12月06日

松本正彦さん「たばこ屋の娘」アングレームノミネート

 なんとか12月売りアックス78号の入稿作業も終わりましたが、その直前にヒドい風邪をひいたりしてここに書くべきことが大分溜まってしまいました。まずは嬉しいニュース。松本正彦さん「たばこ屋の娘」仏語版が来年一月のアングレーム国際バンド・デシネフェスティバルの「遺産賞」にノミネートです。と、ここでふと疑問が…。「アングレーム国際バンドデシネフェスティバル」って正式には「Festival International de la Bande Dessinée d'Angoulême」なんですが、「Bande Dessinée」はフランス語で「Comic」とか「マンガ」に近い意味なので、フェスティバルの名称を日本語にすると「アングレーム国際コミックフェスティバル」「アングレーム国際マンガフェスティバル」と書かれることが多いです。僕もこれまでわりと無自覚にテキトーに使ってきたんですが、Comic、BD、マンガ…それぞれ微妙に違うものを一括りに表すのもちょっと無理があるような気が急にしてきました。向こうの人と話してる時に「マンガ」のことを言おうとしてついつい「Comic」って言っちゃうことがあって、「えーちょっと待って、今のは“Manga”のこと?"Comic"のこと?」って聞き返されたりするし。となるとやっぱりComic、BD、マンガはそれぞれ使い分けた方がいいのかな…ということで今後は表記として「アングレーム国際BD(バンド・デシネ)フェスティバル」にしようかと。
 と、多少すっきりしたところでお知らせの続きですが、今回アングレームにノミネートされた松本さんの「たばこ屋の娘」は去年青林工藝舎から出た本を翻訳したものです。収録作品などは日本と同じはずですが、ちょっと違うのは印刷が日本版よりきれいだという点。いや、仏語版の実物はまだ見てないので「たぶん」です。「たばこ屋の娘」をご覧になった方は一目瞭然かと思いますが、あそこに収録された作品は原稿が所在不明なため、印刷の悪い雑誌から起こしてあるんですね。そこからデータ化して作ったんです。でも雑誌の印刷はとにかく汚くて、完全に汚れを取ってたらいつまで経っても本が出来ない。特に本が売れなくてどんどん点数を出さないといけない今は、リマスターに時間をかける余裕がなく、日本版は必要最低限のリマスタリングで出しちゃってます。これに対して仏語版は、日本語版用に作ったデータをこちらで無料支給して、それを元にフランス側でさらにリマスターしたのちにこちらにバック、受け取った新たなリマスターデータを今度は英語版に使用……という流れになんです。いわばオリジナル日本版で時間的な制約からできなかったことを、海外経由でより質の高いものにした上で、マスターデータを保存するということですね。これからはこういう試みもやっていきたいと思ってます。それに、いつもそうなんですが日本での本作りはあまりにも締め切りに追われすぎなんです。本に収録する解説にしてもそうで、編集作業をしながら解説用の資料を集めたりするのはちょっと難しい。頼んだらすぐ資料を駆使して解説書いてくれるような人がいればいいですが、そもそも誰からも評価されてない作家だったら資料自体がない、評論家も名前さえ知らないということになります。
 それで結局仕事として不完全な物になり、正直本が出来るといつも若干の反省点が残るんです。そういう時に海外から翻訳版の話が来ると、大体の場合、日本語版が出版されてから時間が経ってることもあって、日本語版を作った時にはなかった資料とかを入手済みだったりします。そうするとついつい、日本語版でやり残したことを海外版でやりたくなります(笑)。英語版の「赤い雪」や、今度出る仏語版「劇画漂流」がインタビューや解説でてんこ盛りなのはそのためです。
 「たばこ屋の娘」に戻ると、生前の松本さんは「今の視点で読んだら昔の作品の斬新さは理解されず、再評価されることは難しいだろう」とよく言っていたものですが、それは自作に対する謙遜から来る認識というよりも、マンガが新たな手法をどんどん吸収しながら変質し、表現として前進し、巨大化していった過程を考えれば当然の言葉だったと思います。ただ、現在の視点で見た場合にたとえ手法としてはありきたりに見えたとしても、表面的なものの奥からにじみ出る物はあるんじゃないかと(笑)。今回の「遺産賞」でのノミネートは石森章太郎(佐武と市捕物控)やちばてつや(あしたのジョー)といった超メジャー作家、作品と並んでますが、僕は当然「たばこ屋の娘」の方が好きです。松本さんが「たばこ屋の娘」で描いた世界は他のどんなマンガでも代替不可能なものですから。
 フランス語版の版元、Editions Cambourakisの「たばこ屋」紹介ページはここ。アングレーム遺産賞ノミネート発表ページはここです。
 それはそれとして、来年のアングレームでは「MANGASIE」("MANGA"+"ASIE"のことか?)館で「アングラマンガ:女性の視点」と題した展示が行われ、"有名な日本の雑誌、ガロとアックス"の展示が行われるとか!? 公式サイトの情報ここ。へえぇぇぇ───ってそれ、全然知らされてないんだけど…。ま、いっか。せいぜいどんどん宣伝してウチの本がどんどん売れるようにプロモーションしてくださいアングレームの主催者様! 何しろここのところ毎年ノミネート作品出してるんだから、「編集部、作家含め全員招待」とかしてくれてもいいですよ。「出張編集部」でもなんでもやっちゃうよ。どうよ、50人ぐらい。
 それから「アックス」英語版ですが、すでに何人かがツイートしてくださっているようにPublisher's WeeklyのBest Books of 2010に選ばれています。色んなサイトでの深読みしすぎの勘違い含め反響は大きく(笑)、「全作品レビュー」とかやってる人たちもいますが、今の英語圏での日本のオルタナへの興味の高まりに加え、個々の作品のクオリティ、スタイルやテーマの多様さからすれば評価されるのは当然です。「スゴイ!」とかじゃなくて全然フツーですから。あとはこの調子で少しずつ他の言語圏でも翻訳されて、最終的にオルタナでも食える状態まで持っていきたい…ですが…一生かかりそうだな…。(浅)
posted by 青林工藝舎 at 18:01| 海外版