2009年12月11日

辰巳作品、シンガポールで映画化!

 昨日は急きょ来年一月に発売が決まった辰巳ヨシヒロ氏の初期作品「黒い吹雪」巻末用インタビューに神保町まで。インタビュアーは「劇画漂流」解説も書いて下さった中野晴行氏。1956年、大阪は細工谷での辰巳ヨシヒロ、松本正彦、さいとう・たかをの合宿直後に執筆された「黒い吹雪」は、まだ「劇画」という言葉こそ使ってはいないものの、新たな手法を模索していた辰巳氏の初期の試みの完成形ともいえる革新性を持ち、その後のマンガ表現全体を大きく変えることになるきっかけとなった記念すべき作品です。その意味では、手塚治虫の「新寳島」と並びうる、戦後マンガ史における最重要作と言っていいでしょう。冒頭の列車の脱線シーンから、吹き荒れる吹雪の斜線、視点を変えながら読者を作品世界へと引き込むコマ運び、斬新な構図、どこをとってもカッコ良すぎです!カラーページもそのままに完全復刻しますのでお楽しみに。
 さて、その辰巳氏の作品がシンガポールで映画化されることが決定したと聞いていたので、今日はそのへんもお聞きしてきました。映画のタイトルは「TATSUMI」。えっ?「タツミ」って?作品の映画化じゃないの?…よくよく聞いてみれば、小社刊「大発見」収録作など、辰巳氏の短編六本を主軸に「劇画漂流」で描かれた辰巳氏の半生も絡めた異色作になるようです。となるとセミ・ドキュメントタッチ?果たしてどのような映画に仕上がるのか、今後も新たな情報が入り次第お伝えいたします。監督は昨年のカンヌ映画祭で「My Magic」がノミネートされ、高い評価を受けたエリック・クー氏。辰巳氏の公式サイトには先頃来日した監督と、辰巳氏との会見の模様などがレポートされています。
 実はこれまでにも、メジャーからアマチュアまで、辰巳氏の作品を映像化したいというオファーは世界中から来ています。資金面などの問題でいまのところ実現はしていないのですが、辰巳作品には映像作家の創作意欲を刺激する何かがあるようです。元々は映画の影響で生まれた「劇画」が、その誕生から50年を経て、逆に新たな表現を目指す映像作家に影響を与えはじめているのかもしれません。辰巳氏の「劇画」がまいた種は、今、世界でその芽が開きつつあります。
 そんな動きを実感されられるのが、今年のアメリカでの「劇画漂流」旋風(!?)。New York Timesで大々的に取り上げられたのは記憶に新しいですが、今年発売された優れた本を紹介するいくつかのサイトでもベスト10に選ばれています。
●Publishers Weekly
Best Books of 2009
Comicsセクション(リンクページのまん中辺)
●Amazon
Best Books of 2009
Top 10 Books: Comics & Graphic Novels
カスタマーレビューもたくさん!
 今年の手塚治虫文化賞、大賞受賞で、ようやく日本でも正当に評価された感のある辰巳作品、しかし、日本マンガがまだほとんど翻訳されていなかった80年代から各国で翻訳版が出版されていたことからもわかるように、最初にその価値に気付いたのは欧米諸国でした。カナダのD&Qから辰巳氏に続き翻訳された勝又進氏の「赤い雪」も、早くも多くの反響があるようです。「赤い雪」の反響といえば、フランス語版が出た時に読者の感想として読んでいてすごく嬉しかった一文がありました。それとまったく同じ感想を、アメリカでも書いていた人がいました。「はっきりとした結末が描かれているわけではないけれども、最後のページを閉じたあと、読み手の中でストーリーがずっと生き続ける」という一節です。勝又氏が言っていた「いのちの流れ」に、また出会えた気がしました。「赤い雪」も本が届き次第紹介します。(浅)
posted by 青林工藝舎 at 11:32 | TrackBack(0) | 海外版
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